塗装工事は「塗る前に何をしているか」で決まる ― マンション・工場の塗装品質を左右する“見えない工程”の真実 ―
塗装工事というと、多くの方が
「色を塗り替えて建物をきれいにする工事」
というイメージを持たれて。
「どんな塗料を使うのか」「何色にするのか」「何年もつのか」
といった仕上がりやスペックの部分を気にされているのではないでしょうか。
しかし、マンションや工場といった中・大型建築物の塗装工事において、
本当の品質差が出るのは“塗っている最中”ではありません。
結論から言えば、
塗装工事の良し悪しは「塗る前に何をしているか」でほぼ決まります。
本記事では、
- なぜ「塗る前」が重要なのか
- マンション・工場における下処理工程の実態
- 下処理を軽視した場合に起こる深刻な不具合
について、専門的な視点で詳しく解説します。

なぜ「塗る前」がそこまで重要なのか
塗装は、建物を守るための**保護膜(塗膜)**を形成する工事です。
この保護膜は、
- 紫外線
- 雨水
- 風
- 排気ガス
- 化学物質(工場)
といった外的要因から建物を守る役割を担っています。

この塗膜は、下地にしっかり密着して初めて性能を発揮します。
しかし、下地が以下のような状態だったらどうでしょうか。
- 汚れや油分が残っている
- 劣化した旧塗膜が浮いている
- 錆が進行している
- ひび割れや欠損が放置されている
この状態で塗装を行えば、
塗膜は下地ではなく「不具合の上」に乗ることになります。

結果として、
- 剥がれる
- 膨れる
- 再劣化が早い
という不具合が高確率で発生します。
つまり、
どれほど高性能・高耐久な塗料を使っても、
下処理が不十分であれば、耐久年数は大幅に短くなるのです。
マンション・工場の塗装工事が特に難しい理由
戸建てと比較して、マンションや工場の塗装工事には
次のような難しさがあります。
■ マンションの場合
マンション塗装では、次のような難しさがあります。
- 建物規模が大きく劣化状況にばらつきがある
- コンクリート・モルタル・ALC・鉄部など下地が多種多様
- 居住者様の生活への配慮が必要
- 長期修繕計画との整合性が求められる
特に重要なのは、
「今だけきれい」ではなく「次の大規模修繕まで耐えるか」
という視点です。
■ 工場の場合
工場塗装は、さらに過酷です。
- 鉄骨・配管・タンク・架台が多い
- 高温・高湿・薬品・粉塵など劣化環境が厳しい
- 稼働を止められない、または制限がある
- 防錆性能=設備寿命に直結
こうした建物では、
塗装前の下処理をいかに丁寧に行うかが、建物寿命を左右します。
塗装工事における「塗る前」の重要工程
① 現地調査・劣化診断

優良な塗装工事は、必ず入念な現地調査から始まります。
- 外壁のひび割れ幅・深さ
- 鉄部の錆の種類(表面錆/進行錆)
- 旧塗膜の種類と劣化状態
- 雨水侵入の可能性

この調査を曖昧にすると、
必要な補修が見落とされ、後々の不具合につながり。
これらを見ずに見積もりを出す業者は、
後から追加費用か、手抜きのどちらかになる可能性が高い
と言えます。

② 高圧洗浄|塗装の土台づくり
高圧洗浄は
「とりあえず水を当てる作業」単なる「掃除」ではありません。
- 水圧の調整
- 洗浄ノズルの使い分け
- 素地を傷めない範囲での最大除去
これを誤ると、
- 汚れが残る
- 下地を傷める
という両方のリスクがあります。

- 汚れ
- カビ・藻
- 排気ガスによる油分
- 劣化して粉化した旧塗膜
これらを完全に除去することで、
塗料が下地に直接密着できる状態を作ります。
洗浄後にどれだけ素地が露出しているかが、
職人の技術力を示すポイントです。
洗浄不足は、
数年以内の剥がれ・膨れの最大原因です。

③ ケレン作業|鉄部の寿命を左右する工程
マンションの手すり・階段、
工場の鉄骨・配管・設備架台など、
鉄部が多い建物ほどケレン作業は重要になります。
- 錆の除去
- 浮いた塗膜の除去
- 表面の目荒らし
これを怠ると、
塗膜の下で錆が進行し、見えないところから劣化が再発します。

④ 下地補修|劣化を「止める」工程
塗装工事は、劣化を隠す工事ではありません。
劣化を止める工事です。
- ひび割れ(クラック)補修
- モルタル欠損部の補修
- 浮き部分を撤去・剥離部の補強
これらを適切に行わず塗装すると、
塗膜の下で劣化が進行し、
雨漏りや構造部の腐食につながる可能性があります。

⑤ シーリング工事|防水性能の要
マンション・工場では、
外壁目地やサッシ廻りのシーリング劣化が
雨水侵入の大きな原因となります。
- 打ち替えが必要な箇所
- 増し打ちで対応できる箇所
- 塗装との工程順
これを誤ると、
塗装がきれいでも内部は水浸し
という事態になりかねません。
これらを正しく判断できるかどうかも、
施工会社の技術力が問われるポイントです。

「塗る前」を軽視すると起こる不具合
■ 塗膜の早期剥がれ
洗浄不足・下地処理不足により、
数年で塗膜が剥がれ落ちます。
■ 膨れ・浮き
下地内部の水分や空気が原因で、
塗膜が膨らみ、内部腐食を招きます。

■ 錆の再発・錆汁
鉄部のケレン不足により、
塗膜の下で錆が進行し、再び表面化します。

■ クラックの再発
補修不足により、
短期間でひび割れが再発します。
これらはすべて、
「塗る前の工程」を省略・簡略化した結果です。
そして厄介なのは、
完成直後には分からないという点です。
工期が長い塗装工事は「不安」ではなく「安心」
マンションや工場の塗装工事では、
「工期が長い=生活や業務への影響が大きい」
と感じられることもあります。
しかしそれは、
- 下処理に時間をかけている
- 乾燥・養生を守っている
- 天候を無視していない
という証拠でもあります。

適正な工期=必要な下処理を省いていない証拠です。
- 建物を長く守る
- 突発的な補修リスクを減らす
- 将来の修繕コストを抑える
これらはすべて、
塗る前の丁寧な工程管理によって実現されます。
早く終わる工事=良い工事
ではありません。
まとめ|本当に見るべきは「塗装中」ではない
塗装工事を検討する際、
色や塗料の種類に目が行きがちですが、
本当に確認すべきなのは、
「この会社は、塗る前に何をしているのか」
- 下処理内容を具体的に説明しているか
- 工期の理由を明確に示しているか
- 見えない工程を省かない姿勢があるか
マンションも工場も、
**塗装は“見た目の工事”ではなく“建物を守る工事”**です。
その価値は、
見えない「塗る前の仕事」にすべて表れます。











